元町公園目次
「100万ドルの夜景」でお馴染みの函館山展望台や、色とりどりの教会群、海岸沿いの赤レンガ倉庫など、見どころの多い函館・元町エリア。
その一角にあって、坂の街の観光に疲れた旅行客にひと時の憩いを提供しているのが元町公園です。
元町公園に来たらぜひカメラにおさめておきたいのが、函館山を背景にした旧函館区公会堂の風景です。
西洋の建築様式を日本の建築技術をミックスさせた明治期の洋風木造建築の代表的建造物で、明治43年(1907年)に、市民の集会所・商業会議所の事務所として建てられました。
国の重要文化財である旧函館区公会堂は2021年に約2年半をかけた大改修工事がおこなわれ、竣工した当時を偲ばせる色鮮やかな外観を取り戻したばかり。
青い壁と黄色の柱のコントラストが印象的な建物で、レトロで異国情緒あふれる函館を象徴する写真を撮ることができるとあって、今では観光案内のパンフレットなどにもよく使われるお馴染みの景色になっています。
元町公園は高台にあって見晴らしもよいため、ついつい眼下に広がる街並に目を奪われがちですが、山側の風景も忘れずにチェックしておきましょう。
元町公園の魅力はこうした見晴らしのよさにとどまりません。
今は市民や観光客が憩う公園となっているこの場所こそ、函館発祥の地であり、函館の歴史の中心地でもあるのです。
遡ること室町時代から、良好な港である函館港を望むこの地には、和人の拠点が築かれていました。
そのことを示すのが、元町公園に隣接するペリー広場に置かれている「宇須岸河野館跡(うすけしこうのかんあと)」です。
現在、その痕跡を示す遺構は残っていませんが、江戸時代に蝦夷地を支配した松前藩が編纂した歴史書『新羅之記録(しんらのきろく)』に当時のことが書かれています。
それによると、松前氏の祖である武田信広と共に東北から蝦夷地に渡ってきた河野政通が、函館山の中腹にあるこの場所に館を構えたのです。
その館は四方を土塁で囲まれた方形をしていたことから「箱館」と呼ばれるようになり、これが「函館」という地名のもとになったといわれています。
なお、アイヌの人々は当時、この地を「ウショロケシ(湾の端)」と呼んでおり、函館は古くは宇須岸(うすけし)と呼ばれていました。
時代は下り、江戸時代後期になると北海道近海にロシアの軍艦が盛んに現れるようになります。幕府は蝦夷地支配を強化するため、蝦夷地を幕府直轄領とします。
そして蝦夷地支配の拠点として、函館奉行所が今の元町公園のある場所に建てられたのです。
安政元年(1855年)には、日本に開国を迫ったペリー提督が、補給港となることが決まった函館を視察するため、この地を訪れました。
ペリー提督来航記念碑
その事績を伝えるため、現在、元町公園に隣接するペリー広場にマシュー・ペリーの立像が建てられています。
その後も、函館が長崎、横浜と共に国際貿易港として世界に開かれたのを機に、街には多くの外国人が居住するようになり、アメリカやイギリス、ロシアなど諸外国の領事館が港を見下ろすこの地に立てられていくことになります。
現在、元町地区にはロシア正教会、カトリック教会、英国聖公会など、様々な宗派の教会が立ち並ぶ地区になっていますが、それはこうした歴史的経緯を背景としているのです。
防衛上の理由もあって、函館奉行所は港から見通せる函館山から、内陸部にある五稜郭へと移転しますが、その後もここ元町公園の周辺が函館の中心であることは変わりませんでした。
明治時代に入ると、元町公園の前の坂道を基点として、函館から札幌までをつなぐ約180㎞におよぶ「札幌本道」が整備されます。そして、坂道はこれに由来として「基坂(もといざか)」と呼ばれるようになったといいます。
そして札幌本道は、日本初の本格的な西洋式馬車道として、北海道開拓を支えつづけました。
札幌農学校で若者に「大志を抱け」と教えたクラーク博士も、この札幌本道を通ってアメリカへと帰国したといいます。
そして現在、札幌本道のルートは国道5号線へと受け継がれ、今にいたっています。
なお、この地が基点になったのは、明治時代の札幌本道だけではありません。
実は江戸時代の地理学者・伊能忠敬も、「蝦夷地実測図」を作成するにあたってここ函館山を基点として測量を開始しているのです。
そのため、函館山山頂展望台にはこれを記念した伊能忠敬の肖像を刻んだ碑が設置されています。
残念ながら、函館の歴史に重要な役割を果たした函館奉行所を偲ばせる遺構は、現在の元町公園には残されていません。
しかし平成22年(2010年)、五稜郭公園内に函館奉行所の一部が復元され、建物内部も博物館として公開されています。
函館の歴史ともに函館奉行所の果たしてきた役割なども知ることができますので、函館の歴史に興味を持たれた方は、五稜郭公園内にある函館奉行所を訪れてみるのもいいかもしれません。
元町公園にある階段の最上段からの函館の街並みと函館湾の展望を楽しみ、振り返って函館山をバックに旧函館区公会堂の佇まいを公園から堪能した後は、旧函館区公会堂の中も覗いてみましょう。
建物内の1階の縁側では、ゆがみガラスのはめ込まれた窓から差し込む淡い日差しが影をつくり、レトロな雰囲気の写真が撮影できると人気のスポットです。
また、皇太子時代の大正天皇、昭和天皇が宿泊するなど、天皇家の北海道行啓の際の宿泊地としても使用されていた建物だけあって、2階の貴賓室や浴室などは、置かれている調度品も精巧で優雅な造りでインスタ映えすること間違いありません。
そして極めつけは、2階大広間からバルコニーの向こうに広がる函館湾の風景です。
バルコニーへと通じる開け放ったドアがちょうど額のように眼下の函館の街を切り取り、まるで一枚の絵画のような光景を撮影することができます。
旧函館区公会堂を楽しんだ後は、ぜひ旧相馬家住宅にも立ち寄りたいところ。
旧相馬家住宅は、函館の豪商・相馬哲平が私邸として建てた日本家屋です。
相馬哲平は、大火に見舞われ困窮する函館の人々のために私財をなげうって復興を支援した篤志家であり、先に述べた旧函館区公会堂の建設費の大部分を負担した人物でもあるのです。
この建物、外見は重厚な造りの和風建築そのものですが、内部には和室と洋室が混在する和洋が調和した珍しい造りとなっている興味深い建築物となっています。
さらに、旧相馬家住宅と同じ一角にある洋風建物が、函館市旧イギリス領事館です。
現在の建物は、大正2年(1913年)に建てられたもので、全体は洋風建築でありながら瓦屋根という和洋折衷の建築物です。
内部は函館港の開港に関するミュージアムとなっているほか、英国のアンティークな家具が並ぶティールームが併設されており、本場イギリスのアフタヌーンティが頂けます。
函館市北方民族資料館
元町公園の目の前を下っている基坂を進み、市電とぶつかる角のところに函館市北方民族資料館があります。
こちらではアイヌの文化を伝える衣装や生活用具のほか、アイヌの広範囲にわたる交易活動を示す蝦夷錦などが展示されています。
また、資料館に使われている建物は、大正15年(1926年)に建てられたもので、日本銀行函館支店として使用されていた重厚な造りが特徴です。
その北方民族資料館の西隣には、ひときわ目を引く緑色の建物「相馬株式会社」があります。
先に紹介した旧相馬家住宅を建てた相馬哲平が設立した米穀商「相馬商店」の社屋として建てられました。
現在も使われているため内部を見学することはできませんが、大正時代のロマン香るこの建物をバックに路面電車を狙った一枚がインスタ映えすると、観光客に大人気の撮影スポットになっています。
とくに春から秋にかけて運行されるレトロな外観の「箱館ハイカラ號(ごう)」と組み合わせるのが一番のおすすめとなっています。
この電車は1車両しか走っていないため、狙って撮るには函館市のホームページ等で運行時間をチェックしておくことが必須になりますが、ばっちりタイミングがあえばプロ顔負けの大正ロマン溢れるインスタ映えする1枚が撮影できるはずです。
「坂の街」といわれるほど坂の多い函館。
とくに函館港から函館山に向かっての斜面に数多くの歴史建造物が立ち並ぶ元町エリアは、見晴らしもよくて観光に最適な一方で、坂の上り下りでくたびれてしまうこともあると思います。
そんな時は、気になるオシャレな喫茶店で一息ついてはいかがでしょうか。
さいわい函館は歴史ある街だけに、古民家を利用したレトロで雰囲気のよい喫茶店が多くあります。
「Cafe マリオドール」は昭和10年に建てられた元海産物問屋の店舗を再利用してオープンした可愛らしい喫茶店。大沼にある山川牧場でつくられた濃厚なソフトクリームを使ったメニューが人気です。
一方、質屋の土蔵を改築して明治の香り漂うレトロ感ただよう雰囲気が楽しめる「茶房ひし伊」は、懐かしさを感じるひし伊風パフェが疲れを癒やしてくれます。
ちなみに、この土蔵を所有していた質屋は、郷土の偉人である石川啄木が生活のために利用していたそうです。
人気アニメ『ラブライブ』にも登場したことで、多くのファンが聖地巡礼に訪れたという「茶房 菊泉」は、大正時代の酒問屋の別宅を利用した甘味処です。
軒先の見上げるほどに大きな松も風情タップリな店構え。
店内にも時代を感じさせる調度品に囲まれ、囲炉裏のある和室で白玉ぜんざいやしるこ、抹茶といった和菓子を楽しめます。
また、メニューの中には「くじら汁」という珍しいものも。これは函館の郷土料理で、このあたりでは年末年始にこのくじら汁を食するという風習があるのだそうです。
本州方面から函館を訪れて、公共交通機関を利用して観光を楽しむ場合は、新幹線でも飛行機でも、まずはJR函館駅を中継して、路線バスか路面電車などで市内を移動することになります。
本州方面から新幹線でアクセスする場合は、新函館北斗駅で乗り換えてJR函館駅まで約20分。一方、飛行機の場合は、函館空港からJR函館まで路線バスで約25分です。
そのJR函館駅からは、函館市電「函館どつく前」行きに乗り換えて末広町で下車。そこから徒歩5分で元町公園です。
JR函館駅からは路線バスも利用できます。「函館駅前行(3系統)」に乗って「元町公園前」バス停で下車すれば目の前が元町公園になります。
なお、1日かけて函館を観光する方は、観光用の1日乗車券の利用もぜひ検討したいところ。
市電が1日乗り放題になる「市電1日乗車券」や、函館バスが乗り放題になる「函館バス専用1日乗車券」、市電とバスの両方で使える「市電・函館バス共通1日券・2日券」など、目的に合わせて利用することで、お得に観光を楽しむことができます。
車をご利用の場合、元町公園へは函館市元町観光駐車場の利用が便利です。
立体駐車場と野外の広場式駐車場とがありますが、立体駐車場の方には利用時間がありますので、もし箱根山の夜景もあわせて楽しむ予定がある場合には広場式の方が時間に余裕を持って夜の観光を楽しめるはずです。
また、JR函館駅前では、電動レンタサイクル「はこりん♪」のサービスが提供されています。坂の多い函館ですが、電動自転車なら坂道も苦になりません。
こちらはバスや電車の時間を気にせず、自分のペースで函館の街を散策したい方にとくにおすすめです。